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「オーブレー」 [マッチコレクション(ジャズ喫茶)]

 若い頃、まともな仕事の下積み時代に耐えかねて、アルバイトに身をやつしていた時期がありました。今で言うフリーターの走りのようなものですが、当時はまだそんな言葉もなくて、世間の一部ではそういう人種のことをアルバイターなんて呼んでいることがありました。

 そんなアルバイター時代に、あるアルバイト先で知り合った関さんと言う方がいました。すごくまじめな方で、仕事も丁寧でみんなから信頼されている人でした。

 私も入ったときに仕事を教えてもらったりしていたので、てっきり社員さんだとばかり思っていたのですが、なんと彼は私と同じアルバイトでした。但し、私などとは違って、放射線技師の勉強をするためにアルバイトをしていたのでした。

 歳は私より一つだけ上だったのですが、落ち着いておられたので3つも4つも上の人に思えましたし、まわりからもそんな風に見られていました。

 固すぎるくらいまじめ一方の人だったので、仕事中は眉間に皺を寄せて難しい顔をされていることが多かったんですが、休憩の時などになると、寡黙なところは変わらないのですが、顔つきがぐっと柔和になって面白かったですね。あまり自分から話したりする方ではなかったのですが、みんなの会話をにこやかに聞いていると言った感じの方でした。たまに見せる笑顔がなんとも人なつっこかったですね。

 その関さんがある日の仕事帰りにジャズ喫茶に連れて行ってくれと言いました。関さんとジャズ、妙な組み合わせですが、喜んで案内することにしました。

 少しおしゃべりも出来てお酒も飲めるような店が良いと言うことだったので、私は「オーブレー」という店に案内することにしました。

オーブレーB.jpg  オーブレーA.jpg 

 「オーブレー」は以前に紹介しました「ビアズレー」の姉妹店で、中央線中野駅南口にありました。狭い露地に面したビルの地下でした。

 黒づくめで硬派なイメージの「ビアズレー」とは違って、「オーブレー」は明るくてちょっとしゃれた感じの店内だったと思います。

 お店に入ったとき、外はまだ明るかったので、夏だったんだと思います。一番奥の席に陣取って、ビールとポテトチップスか何かのおつまみを頼みました。

 関さんはこういうお店が初めてらしく、しばらくは物珍しげに店内を見回したりしていましたが、ある程度落ち着くと私に何かリクエストをしないのかと言いました。

 こういうお店でしかも、お酒を飲みながら聞くとなれば、やはりボーカルですが、あまり知りません。それでお気に入りの「ヘレン・メリル・ウイズ・クリフォード・ブラウン」をリクエストすることにしました。

 

  有名な「YOU’D BE SO NICE TO COME HOME TO」のところで、この曲がとくに好きなんだというと、彼はお喋りをやめてまじめな顔で耳を傾けてくれました。

  その後、ほかにどんな曲がかかっていたのか記憶がありません。私たちはそこで仕事のことや将来のこと、アルバイト先の女の子のことなどを話したような気がします。ふだん寡黙な関さんも、お酒が入るとけっこう饒舌になっていました。

 関さんは放射線技師の資格を取得して勤務先も見つかったとかで、近いうちにアルバイトを卒業すると話してくれました。そのあとで「君もいつまでもふらふらしていないで・・・」などとは言わないで、「君はどうするの」と一度聞いただけでした。

 どれだけの時間そこにいたのでしたか、そろそろ帰ろうと言うことになったとき、すっかりお酒が回った関さんは、にこにこしながら、もう一度さっきの曲をリクエストしてくれないかと言いました。

 再び、ヘレン・メリルのハスキーな声がYOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO~と小気味よいテンポで歌い出すと、関さんはその曲がずっと前から彼のお気に入りの曲だったみたいに、嬉しそうな顔になってリズムを取り出しました。

 後年、この曲がウィスキーだったか紅茶だったかのコマーシャルで、TVに流れたことがありました。関さんはどこかでコマーシャルを聞いて、あのときの曲だと思い出してくれたでしょうかね。


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mwainfo

こんばんは。
お寄りくださり、ナイス有難うございます。
クリフォードブラウンは、私の最も好きなプレーヤーです。ハードバップとはいえ、何よりも彼のハートウオームな歌い回しがいいですね。
長いことジャズを聴いてきて、このブラウンとエバンスが残りました。
最近は、ケン・ケプロフスキーとギルド・マホネスを良く聴きます。

by mwainfo (2008-06-08 22:59) 

FUCKINTOSH66

いま「 You'd Be So Nice To Come Home To」を
ゆーちゅーぶで聴きながら書き込みです♪

関さんも空兵さんに好印象だったんでしょうね〜
一緒に呑みに行こうぢゃなくって、ジャズ喫茶に連れてってくれ
って言うところや、君はどうするの?とだけ聞くところが
関さんのお人柄や空兵さんに対する感じが伝わってくるようです
by FUCKINTOSH66 (2008-06-09 02:00) 

空兵ーS

mwainfoさま
こんばんは
nice並びにコメントありがとうございます。
クリフォード・ブラウン、このヘレン・メリルとの共演ではとくに歌心溢れたソロを聴かせてくれます。
ビル・エバンスもいいですね。
ケン・ケプロフスキーとギルド・マホネスは初めて聞く名前でした。
by 空兵ーS (2008-06-09 22:13) 

空兵ーS

FUCKINTOSH66さん
こんばんは
Youtubeにそのままがあるとは・・・貼り付けさせてもらいました。
関さんをはじめ、東京にいた間は、ずいぶんたくさんの個性的な人たちとの出会いがありましたが、ほとんど刹那的なお付き合いで終わってしまい、今から思うと残念です。皆さん、どうしているんだろうと思います。
あれから2.30年が経って、出会った多くの人たちと、同窓会でも開きたい気分です。
by 空兵ーS (2008-06-09 22:44) 

イチロ

良い話ですね。
なんだか空兵ーSさんのブログはすごく味が出ています。
僕なんかまだまだですね。
ジャズにまつわる良い話が胸にジーンときました。
by イチロ (2008-06-10 18:53) 

空兵ーS

イチロさん
ありがとうございます。
拙い思い出話ばかりで恐縮です。
イチロさんのように、
音楽のことについてはあまり詳しくかけません。
by 空兵ーS (2008-06-13 18:15) 

mwainfo

こんにちは
先日のコメント欄に間違いがありました。

ケン・ケプロフスキーは、ケン・ペプロフスキーでした。クラリネットと
テナーの両刀使いの多彩なプレーヤーです。ヴィーナスレコードから出ています。大変失礼いたしました。
by mwainfo (2008-06-14 11:45) 

空兵ーS

mwainfoさま
こんばんは
ケン・ペプロフスキーですね。テナーとクラリネット、レスターヤングみたいです。機会があったらぜひ聞いてみたいですね。

by 空兵ーS (2008-06-14 22:34) 

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