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夜が明けたら [マッチコレクション(ジャズ喫茶)]

 久し振りにジャズ喫茶のお話です。まだまだ紹介していないジャズ喫茶あるのですが、マッチ箱が無かったり、思い出と結びつかなかったりでついさぼっていました。

 ところが先日、と言っても去年のことですが、FUCKITOSH66さんの記事つながりで、あるお店を思い出しました。しかもそのお店には強烈な思い出があります。なぜこのお店を忘れていたのか、多分マッチ箱がなかったこと、それからあまり思い出したくない事柄のせいだと思います。

 そのお店は「アケタの店」と言いました。オーナーは明田川荘之さん、お店をオープンした当初は大学生でミュージシャンでもあったそうです。ときおりジャズ誌でもその過激な発言を目にすることがあり、なんとなくアバンギャルドな雰囲気の方と想像していました。お店もジャズ喫茶としては他のお店と一味違った感じだったような気がします。

 店は西荻窪北にありました。私も当時(1970年代中頃)その近くに住んでいました。私のアパートの近くには故丹波哲郎さんの豪邸があり、確か「アケタの店」の近くにはキャンディーズの蘭ちゃんの実家があったような気がします。

 新宿や吉祥寺のお店には電車賃を払ってでも行くのに、歩いて行ける「アケタの店」には、数回しか行っていなかったと思います。

 

Image0013.JPG

 ある時、その「アケタの店」で浅川マキさんのコンサートがあり、知り合いの女子大生さんと一緒に行くことになりました。なぜそういう話になったのか忘れてしまいました。ちょっとアバンチュールを楽しんでみようと言うことだったのかもしれません。

 落ち合って「アケタの店」に直行と思っていたら、やはり同じ西荻北に住んでいる彼女のアパートに立ち寄ることになって、展開が違った風になりました。彼女は妹さんと一緒に住んでいたのですが、そのときは妹さんはいなくて私と二人きり。しかし、元来融通が利かない私は、コンサートの始まる時間ばかり気にしていました。

 結局、何事もなく二人は開演直前に「アケタの店」へ。資料によるとお店は吉野家ビルBFとなっているのですが、私の記憶では一軒家の一階、しかし現在もその場所なので私の記憶違いだと思います。

 店内は狭くて暗かったことしか覚えていません。コンサートの演出として黒一色に統一されていたのだったかどうか。ステージの前に椅子やテーブルがかためられ、適度にその後ろの観客と距離が保たれていました。

 浅川マキさんの出で立ちもレコードジャケットでおなじみの黒のドレス一色でした。長い髪、青白い顔、存在感が際立っていましたね。彼女は「かもめ」「夜が明けたら」など私でも知ってる歌を独特のけだるい調子で歌いました。

 狭い客席はすべて立ち見で満員電車並みの混みようでした。みんな、おしくら饅頭のように体をくっつけあって浅川マキさんの歌を聞き入っていました。

 私の右横には、Tさんのふくよかな体があります。しかし、先ほどから私の左側でなにやらもぞもぞ動く気配がします。はじめ気のせいかと思っていたのですが、どうやら私の身体を触っているようです。しかもその手はやがて私の尻も撫で始めました。

 隣のTさんと触る相手を間違えているんじゃないかと思いました。その手の持ち主を見やると、華奢な感じの若い男でした。「やめろ」と言うと「いいじゃない」とニタニタ笑いながらなおも触ってきます。

 もう歌どころではありません。男の方に向き直ってその手を払い、「やめろよ」ともみ合っていたら、とうとう浅川マキさんに、「そこの人うるさいよ」と指さして叱られてしまいました。

 決して彼女の歌を邪魔する気はなかったので不本意な叱責でした。思わず、痴漢男を指さして弁明しようとしたのですが、彼女の凄みのある目ににらまれるとそれ以上何も言えませんでした。

 その後その男は静かにしてくれたのか、よそへ行ったのか忘れてしまいましたが、おかげで私にとってはさんざんなコンサートとなりました。

 何も知らないTさんは何のことかわからず浅川マキさんに叱られた私を怪訝な顔をして見ました。彼女はスタイルも良くてけっこう目立った感じの女性だったのですが、その彼女ではなく私が痴漢にあうとは想像も出来ないことでした。

 もちろんこんなことは生まれて初めての体験でこれが最初で最後でした。普通その道の人たちは互いに惹きつけ合うものがあると聞きますが、彼は何か勘違いしたのでしょうか。

 「アケタの店」と言うと、こんなつまらない出来事が思い出されてしまいます。お店は今も健在で明田川さんはお店も演奏も、ますます元気に続けられているようです。


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コメント 12

kasumi

こんにちは
あるきっかけで思い出す、強烈な思い出・・・
まさしくわたしもここにお邪魔して思い出してしまいました。
10代の終わりによく行く映画館で痴漢と遭遇・・・
今でこそ笑えるお話ですが、当時は強烈な出来事でした。
もちろん、映画の内容はいまだに覚えていません(苦笑

「夜が明けたら 」独特な世界ですね・・・・
この頃は、寺山修司詩集を友人とよく朗読したりしていました。
by kasumi (2009-02-14 10:22) 

kotarobs

このネタで小説を書きたくなりました[わーい(嬉しい顔)]
by kotarobs (2009-02-14 12:15) 

mwainfo

陰気で何とも言えませんが、私が通ったジャズ喫茶は、幸いにも陽気なところばかりでした。
by mwainfo (2009-02-14 21:04) 

プリウス

こんばんは、プリウスです。

男性狙いの痴漢とは何とも苦い経験ですね。
出張の時歩いて駅まで行くと途中にジャズ喫茶が1軒ありました。
10数年気にもしないで通り過ぎていましたが、
ジャズを聴くようになって帰りに寄っていこうとしたら、小さな張り紙
「長い間ご愛顧頂きありがとう御座いました・・・・・・・。」
学生時代に行ったことのあるオーディオ喫茶店はすべてありません。
何とも寂しいかぎりです。


by プリウス (2009-02-14 22:35) 

空兵ーS

kasumiさん
こんばんは
10代での体験、さぞショックだったでしょうね。
私の場合は、男同士と言うこともあって
迷惑でただ腹立たしいだけの出来事でした。

浅川マキさん、当時独特な存在感がありました。
ビリー・ホリディやマヘリア・ジャクソンの影響を受けていたそうです。
by 空兵ーS (2009-02-15 19:58) 

空兵ーS

kotarobsさん
滑稽小説になりそうです。
by 空兵ーS (2009-02-15 19:59) 

空兵ーS

mwainfo さん
こんばんは
今では笑い話のような記憶ですが、
だからと言って陰気なお店という印象は無かったですね。

by 空兵ーS (2009-02-15 20:01) 

空兵ーS

プリウスさん
こんばんは
ジャズ喫茶どころか地方へ行くほど
喫茶店が減ってきている気がします。
街中のスタンド形式のような喫茶店が増えて
オーディオや調度に凝ったゆっくりくつろげる店
コーヒー一杯で粘れるお店
ご夫婦でやっておられるような喫茶店などが
減って来ているのは時代のせいでしょうか。
残念なことです。

by 空兵ーS (2009-02-15 20:06) 

イチロ

大変不愉快な経験ですね。
いいことばかりではないけれど、
やっぱり、痴漢はいただけないですよね。

今の時代が象徴しているのか、時間を楽しむようなゆとりのある物事がどんどん廃れているように思います。
大量消費の空しい世の中になったもんです。
人の心もさびれてきますよね。
by イチロ (2009-02-15 22:53) 

空兵ーS

イチロさん
こんばんは

やはり効率を優先すると切り捨てられる事柄が多くなってしまいます。
その結果、ゆとりとか遊びとかあいまいな部分がどんどん削られていっているのだと思います。
でも人間は、効率だけでは生きていけないのでそこに軋轢が生まれるのだと思います。
by 空兵ーS (2009-02-16 21:09) 

FUCKINTOSH66

なんとっ、そんな想い出があったんですねぇ@アケタ。せっかくのデート?だったのにぃ。叱った浅川さんも、この状況を想像できませんもんねぇ。。。その男性、ノンケ好きのお方だったのかも?。。。

でもほんと羨ましいです、浅川さんの生歌を至近距離で聞けたなんてっ。アケタ、ずっと続いてほしいですよね。
by FUCKINTOSH66 (2009-02-20 11:37) 

空兵ーS

FUCKINTOSH66さん
こんにちは 勝手にリンク貼らせていただき申し訳ありません。
以前コメントした詳細はこういうことでした。男の私が痴漢に会うなんてどっちらけですよね。

浅川マキさんは、友人がレコードを持っていて何度か聞かされていたので雰囲気は学習できていたのですが、実際の彼女は、ちょっと怖い感じさえするくらい存在感がありましたね。

「アケタの店」上京の機会があれば立ち寄ってみたいです。
by 空兵ーS (2009-02-22 11:23) 

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