オリジナル?~サムシング・クール [音楽(ジャズ)]
夏の昼間、クーラーもない四畳半の部屋で汗をかきながらクリフォード・ブラウンを聞いていたのは若い頃の話です。今は少しばかり部屋は広くなっただけ、相変わらずクーラーは無く、もはや汗を流して聞くだけの体力も気力もありません。
今日で八月も終わりですが、まだまだ残暑の中にいます。身体と心はすでに残暑に及び腰、夏の間、暑さに負けてすっかり聞こえなくなっていた音楽が、ここのところ折々心にふれるようになってきました。車の中などでも、乾ききった身体が水分を求めるように、流れるFMに甘い旋律を求めています。
サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウンのオリジナルレコードを買ってその魅力の一端を知ったのは、先月のことでしたか。あれから、時々めぼしいオリジナルレコードを物色していましたが、なかなか見つからなかったり落札できなかったり、そんな中最近ようやく第二弾を入手しました。
こちらです。ヤフオクでのタイトルは「初期オリジMono美盤完品June Christy / Something Cool」というものです。
その割には落札価格、通常の中古レコードよりわずかに高い程度でした。
このレコードは、以前に京都の中古レコード店で入手しています。その時二点あって私は安い方を選びました。ジャケットが水に濡れたのか波打っていたのです。しかし盤には損傷ありませんでした。
このころ、私はボーカルとモノラルカートリッジに嵌っていて、たちまちジューン・クリスティの切々と歌う歌声に引き込まれました。ジャズ、オーディオ再開してボーカルものが増え始めたのもこのあたりからだった思います。
オリジナル盤が届いて当然二枚を聞き比べをします。暑くてこのところ真空管アンプ休眠状態だったのですが、やはりオリジナルモノラルレコードはモノラルカートリッジDL-102で聞かないと真価はわかりません。
DL-102、A3500、JBL4312Dを通して聞こえてくるジューン・クリスティのサムシング・クールは声に厚みと深みがあり、抑揚の効いた陰影のある歌声は想像以上です。
次に前に買ってあったサムシング・クールを取り出します。長い間、ぎゅうぎゅう詰めのレコード棚にしまってあったにもかかわらず、ジャケットの濡れた歪みは治っていませんでした。
国内盤と思っていたレコードは、手にしてはじめてわかったのですが、輸入盤でした。
同じく真空管アンプA3500にDL-102をおろします。JBL4312Dから聞こえてくる声はやはり太くて厚みがあります。しかし、よく聞くと印象が微妙に違います。
オリジナル盤の歌声には深み、陰影が感じられたのに、こちらは力強いだけで棒のように平板、単調に聞こえます。まるで別の歌唱のようです。こんなに違うのか。オリジナル盤恐るべし、と思いました。
しばらくはサラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン以上のオリジナル効果に喜んでいたのですが、ある日、ふと気になってジューン・クリスティやサムシング・クールを検索してみました。すると世間では通説でありながら、私が知らなかった事実に行き当たりました。
ジューン・クリスティがサムシング・クールを録音したのは1953年だそうです。最初は、1955年に10インチ盤で出てあとから12インチ盤も出て大ヒットしたのだそうです。それはそれでよいのですが、どちらもモノラル録音でジャケットもモノクロのイラスト、女性が伏し目で笑っています。
ところが私が以前から持っている盤はもちろんのこと、今回落札したレコードもジャケットはカラーでイラストの女性はぱっちり目を見開いてこちらを見ています。
ネットの情報によると、サムシング・クールは1960年頃にステレオ録音をしているそうです。バックも同じ指揮者で、ややこしいことにジューン・クリスティはステレオ盤に当たって歌い直しているのだそうです。
この事実を知ったときは、だまされてステレオ盤をつかまされたと思いました。改めてステレオカートリッジDL-103LCⅡで聞きました。モノラルカートリッジで聞くときに比べて、やや定位が不安定に感じられ、音も薄っぺらく聞こえますが、出てくる音はモノラルにしか聞こえません。
ジャケットはステレオ盤仕様なのに、レコード盤自体はモノラルってことなんでしょうか、訳がわからなくなってきました。
試しにもう一枚、以前から持っていた方をステレオカートリッジで再生してみました。するとなんと、こちらがステレオ録音盤でした。このレコードを買ったときは、DL-102に嵌っていましたし、スピーカーも4312Dが一本しかなくてみんなモノラルで聞いていたのでした。
ジューン・クリスティの歌い方もよく聞くと少しアクセントが違います。バックの演奏も音が少し鋭く聞こえます。道理で別の歌のように聞こえたはず。実際に別の録音だったのです。
この二枚のレコード、ジャケット表紙はほとんど違いがありません。左が以前に買っていたもので、コーティングされています。右側が今回購入したもので、イラストの色にわずかに深みを感じます。
裏面に回ると、デザインが少し変わっているのがわかります。右側が今回買った盤です。左のジャケットのクリップに止まった枠内の書き込みを読むと、このレコードがステレオ盤であることが報告されているようです。
また、下の方にEMIのマークのある記述ありますが、これらはオリジナル盤と称されるものにはありません。
しかし、どちらのレコードジャケットの表紙にも 1960 CAPITOL RECORD、INCと小さな文字で記述されています。と言うことはこれらのレコードが1960年以降に製造販売されたことを証明しているのではないでしょうか。
ちなみにCAPITOLはアメリカのレコード会社ですが、ビートルズのレコードでも有名です。
レーベルの違いはこんな感じでやはり右側が今回のレコードです。ネットで調べてみると、ブラックレインボーと呼ばれているレーベルデザインでこのタイプは1960年代にあったようです。確かにモノラル最期のレーベルと書かれています。
こういったことを調べていくと、このレコードがモノラルレコードであることには違いありませんし、私が買ったステレオ録音盤よりはかなり古いものであることに間違いはなさそうですが、果たして初期オリジナル盤と呼べるのかどうか疑問が残ります。
本当の意味でのオリジナルは10インチ盤ではないかと思います。12インチ盤にしても初期のものは、ジャケットがモノクロ伏し目でレーベルデザインももっと地味なものではなかったのかと思います。
もちろん演奏に不足はありません。多少ノイズが乗るもののジューン・クリスティの深みのあるハスキーボイスの魅力は届いているのですが、この声が本当のオリジナルと比べてどうなのかはわかりません。
どうやら一杯食わされたかな、と思いながらもう一度出品情報を読み直してみました。
・・・レインボーリム&ブラック・レーベルの初期モノラル・オリジナル。Capitolスリーヴ附属完品です。名匠 Pete RugoloのオーケストラをバックにCapitolからリリースされた1953~1955年録音の傑作デビュー・アルバム。
実に曖昧な書き方です。レインボーリム&ブラック・レーベルの(中の)初期モノラル・オリジナルと解釈すれば問題なさそうに思えます。この表現ですと、別にもっと違うレーベルの初期モノラルがあってもおかしくないことに・・・この辺微妙です。
音には関係ありませんが、これがCapitolスリーブです。確かに時代を感じさせて趣がありますね。普通のモノラルレコードにこのスリーブが着いて少し高くなったと言うことでしょうか。
いずれにしても、そう高いものではなかったのが不幸中の幸いでした。今回は良い勉強をしたと言うことにしておこうかと思います。以後もう少し説明文をよく読んで慎重に入札しすべきかと思いました。
それと今回の場合、オリジナルにさえこだわらなければ、偶然ですがモノラルとステレオの違ったジューン・クリスティのサムシング・クールを聞くことができ、かつ揃えることができたのは良かったかなと思っています。
いずれにしてもオリジナルレコードというのは、レーベルごとに時代ごとに、その個別プレイヤーごとにいろいろな場合があるようです。それを調べて頭に入れておきながら、オリジナルレコードを見つけていくのは、かなり年期がいりそうです。
YouTubeのジューン・クリスティ/サムシング・クールはモノラル盤です。
終わったはずの海の家のバイトを、先週の土日もやらされました。
今年は、月末になっても海に人が出ています。
夏には強く、夏バテってどんな感じ?って思っていた僕も
今週はぐったりでした。
by cafelamama (2012-08-31 23:55)
かなりマニアックな世界ですね~
僕は聴ければ良い派で良かったです^^
by tromboneimai (2012-09-01 08:20)
cafelamamaさん
こんにちは
私も暑いのは苦手ですが、夏には強くて
太ってしまうことがあるのに、今年は体重増えてません。
特にここのところの畑の水やりには、閉口してます。
ところによって降る雨の、ところに当たらない天気予報が恨めしいです。
by そらへい (2012-09-01 11:26)
tromboneimaiさん
こんにちは
オーディオには機器へのこだわり、ソフトへのこだわり
色々あるようで、突き進めば進むほど
狭く細い迷路に入っていくようです。
by そらへい (2012-09-01 11:31)
こんにちは
奥が深い世界ですね~
1枚だけ国内盤、US盤、UK盤と聞き比べをしようと
思っていたのですが頓挫しております^^;
同じレコードでも値段がこんなにも違うのだなと
何時も感心しながら某オクをチェックしたりしています。。。
by Studio-Oz (2012-09-01 12:57)
Studio-Ozさん
こんにちは
国内盤、uk盤、us盤の違いですか
色々ありますね。
奥も深いし幅も広いと言うところですね。
今まではレコードを揃える方に目がいってましたが
最近はお気に入りのレコードの品質が気になってきたりしています。3
by そらへい (2012-09-01 13:16)
まあ、レコード好きには「オリジナル」という言葉は、
麻薬のように浸透しますからねぇ・・・^^;
それこそ、真にオリジナルであれば、相当な高値でしょうね。
輸入盤で状態の良いものであれば、
オリジナルでなくても良い音で聴けますよ。
国内盤は、若干ぼけている場合が多いようですので。。。
by たいへー (2012-09-01 17:09)
たいへーさん
こんにちは
オリジナルと書かれていると、つい
確かに本物ならこんな値段では、ですね。
ま、モノとステレオを聞けたのは怪我の功名でした。
myコレクションはどうしても国内盤中心ですが
ベールを被って、安定感重視の音作りですね。
by そらへい (2012-09-01 17:32)
そらへいさん、こんにちは!!
いや~、、ずーーっと!、、気になっていたのです。。。
このような違いがあったんですね。。。
・・調査の労力に、頭が下がります、、。。。
夏の終わりの暑い日、、、夕方のそよ風に誘われて、サムシング・クールがお似合いかも!
by プリウス (2012-09-01 18:26)
プリウスさん
こんばんは
レコード1枚とっても知らないこと多いものです。
今回のことがなければ、ずっと先に買ったステレオ盤 が
唯一無二のものと思い込んでいたところです。
もう少し涼しくなったら、
真空管アンプをフル稼働させて
二枚のサムシングクール、じっくり聞き比べてみようと思ってます。
by そらへい (2012-09-01 19:19)
ん~ いつにも増して読み応えのある記事をありがとうございます。
by しばちゃん2cv (2012-09-01 20:56)
こんばんは。
どう言い表せば良いのか、イマイチよく分からないんですが、
アナログ機器で育った世代としては、アナログ機器周辺の話題って
すごくすんなりと身体の中に入っていくような気がします。
今日の話題なんかも、実はジューン・クリスティさんを存じ上げないから
ピンと来ないところが無いわけでもありませんが、それでも、テーマの本質
と言いますか、核心部分はしっかりと体感できます。
錯覚かもしれませんけど。(笑)
今日、博多駅筑紫口のヨドバシを徘徊して来ました。
目的は別のところにあったはずなのに、案の定、オーディオ機材の展示
スペースにいた時間が全体の約8割を占め、圧倒的でした。
昔に比べれば、展示されるオーディオ機材の絶対量は減っていますが、
それでも、一時に比べればかなり回復したように思います。
あー、楽しかったなあ♪
<本日の徘徊の成果>
DENONのDP-500M、買おうかなあ。^^ゞ
(倉庫のDENON DP-1700は、オーバーホールが必要な状態でした)
by song4u (2012-09-01 22:23)
すごいのひとことですね!
でもいいですね、このジャケット サムシングクールいいですね!
自分はジャケットは今はリビングの飾りです。
ちなみに今の飾りはコルトレーンのバラードです。
by ken (2012-09-02 00:09)
お早うございます。
ぎゃらりぃのインテリアでジャズの古いジャケット飾ってますよ。
by 夏炉冬扇 (2012-09-02 07:21)
なんと、オリジナルレコードって、そんなに奥の深いものだったんですね。
なんでも鑑定団に出てくる焼き物なども素人には全く分かりませんが、このレコードの世界も一緒ですね。
by 駅員3 (2012-09-02 12:16)
わたしはブラウニーのペットが聞きたくて買ってしまいました。
by U3 (2012-09-02 16:25)
しばちゃん2cvさん
こんばんは
いえいえ、いつもせっぱ詰まって、ぎりぎりの更新です。
いくら一週間あっても、なかなか前もって書けないものですね。
by そらへい (2012-09-02 22:55)
song4uさん
こんばんは
オリジナルだとか、いつの時代のものだとか、こんなことが取りざたされるのも
アナログだからなんでしょうね。デジタルでもCDだと、リマスター盤とかあるようですが、それでもプレスの時期云々は言われませんからね。
ましてや、今流行のダウンロードミュージックでは・・・
ヨドバシカメラは大阪と京都しか知りませんが、どちらも最近置かれていないオーディオにスペース取っているので、嬉しくなります。
スピーカーやカートリッジ、スピーカーコード、電源などマニアの心理をくすぐる商品が並べられているので、行くといつも長居してしまいます。
もっとも、もっぱら中古がらくたオーディオを自認している私としましては
見るだけ、目の保養だけなんですが。
DP-500M、一時より値段が下がっていますね。DP-1700を昔買われたときと値段変わりませんが、お金の価値が違います。
DENONメンテナンスしてくれるので、DP-1700をメンテされるのも手ではないかと思います。いろんな意味で、重みが違いそうです。
by そらへい (2012-09-02 23:08)
kenさん
こんばんは
私も、時々昔のジャズ喫茶みたいに
今掛けているレコードのジャケットをミニイーゼルに立てかけて
楽しんでいます。
コルトレーンのバラードは間違って買ってしまい2枚持っていますよ。
by そらへい (2012-09-02 23:12)
夏炉冬扇さん
こんばんは
朝夕は少しましになりましたが昼間はまだ暑くて
雨が降らないので、畑の水やりが大変です。
ジャズのジャケットは、しゃれたのが多いので
壁の飾りに適していますね。
by そらへい (2012-09-02 23:14)
駅員3さん
こんばんは
レコードは、レーベルの文字やデザインなどが
レコード会社の時期によって、違うことが多いようです。
それでそれを手がかりに、年代を探ることになるのだと思います。
素人が手を出すと大やけどしそうですので、ほどほどにしようと思ってます。
ま、むちゃくちゃ高額なものは買えませんし、絵画や骨董ほどは値も張りませんが。
by そらへい (2012-09-02 23:19)
U3さん
こんばんは
このレコードにはクリフォード・ブラウンの演奏はありませんが、
この間のサラ・ボーンやダイナ・ワシントンのバックでは聞くことができます。
by そらへい (2012-09-02 23:21)