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ある夏の宵~ルシアンの青春 [その他]

 9月中旬にさしかかって、さすがに朝晩は涼しい日が増えてきましたが、昼間はまだ動くと汗ばむ暑さが残っています。台風16号も発生して、残暑厳しいという予報が出ていました。 

 ある夏の宵と言っても、もうお盆も過ぎて、秋めいてとは言えないまでも秋が恋しくなってくるような宵のこと、そろそろ音楽が聞きたくなってきました。

DSC_3827.JPG 近くの中古店で買ったジャンゴ・ラインハルトのアルバムをかけました。CDは持っているのですがレコードははじめてです。ベスト盤でしたがワンコインの値段につられて買いました。

 最初に掛かった曲が懐かしい聞き覚えのある曲でした。「マイナー・スウィング」浮き立つようなリズム、それでいて悲しげな旋律・・・ジャンゴ・ラインハルトはジプシーの血を引いているフランス人ジャズギタリスト、それで懐かしく聞こえるのだろうかと思いました。油井正一さんのライナーノートを読んでみると一曲目の「マイナー・スウィング」が映画「ルシアンの青春」のテーマ曲に使われていると記されていました。

 そういえば、前にこのブログでジャンゴ・ラインハルトを取り上げたときに、どなたからそんな内容のコメントをいただいた気もするのですが思い出せません。

 次に私の興味は映画「ルシアンの青春」に移りました。タイトルははっきりと記憶があります。1970年代の映画です。しかし中身をほとんど思い出せません。それどころかこの映画を見たのか見ていないのかも思い出せません。

 1970年代の映画のタイトルというと、愛の・・・とか青春とか華麗なるとかが付いたものがやたら多かった気がします。ひどいものになると「愛と青春の旅立ち」なんておいしいところを寄せ集めたタイトルもあったりして、どれがどれだったか判らなくなってきます。

 ルシアンの青春は1973年、伊、仏、西独公開。監督はあの「死刑台のエレベーター」ルイ・マルです。だから覚えていたのでしょうか。YouTubeで映像付きの音楽を聴いてみても思い出せませんでした。

 ブログ仲間のcafelamamaさんが、「大人は判ってくれない」というブログでたくさんの映画を紹介してくださってます。そこでもタイトルに覚えがあるのに、紹介文の中のストーリーを読んでも思い出せないことがあって困ります。

 元々、映画好きと言うより、夏の休日、冷房のないアパートから抜け出して冷房の効いた場所で長時間過ごしたいがための映画館通いでした。そこへ40年前後の月日が立ちはだかるわけですからよほどでないと覚えていられないのかもしれません。

 また印象的な映画であっても、ほんの一部分を拡大解釈して覚えていたり、ストーリーを曲解して覚えていたりすることがあって、あとで見直したりした時自分の記憶力の頼りなさに改めて気づかされます。

 「ルシアンの青春」を見たのか見ていないのか、確かめたいこともあって近くのレンタル店に行きました。妻はそこでよく韓国映画などを借りているのですが、私は書籍売り場やCDレンタルに行ってもあまりDVDコーナーには行きません。

 慣れないせいもあってかレンタル店探しにくいですね。「ルシアンの青春」がレンタル店のどのカテゴリーに入っているのかわかりません。名作、恋愛、青春、戦争・・・さんざん探しても見つけられず、店員さんに聞いたら検索してくれました。検索できること知りませんでした。

 残念ながら置いていないという返事です。それにしてもレンタル店の韓流の棚の多さに驚かされます。これではほかの旧作や地味な名作は圧迫されて置いてもらえないだろうと思います。

 仕方ないのでウェブレンタルで借りることにしました。既存の店舗で借りるのに比べると割高ですが仕方ありません。

ルシアンの青春 [DVD]  

 今やビデオ鑑賞用のモニターと化したブラウン管テレビにテクニクスのプリメインアンプをかまし、セレッション3mk2を繋いだシステムで久々に映画鑑賞です。

 

 映画は、冒頭、フランスの田舎町を自転車で疾走する若者ルシアンの姿を延々ととらえながら、バックにジャンゴ・ラインハルトのギターとフランス五重奏団の「マイナー・スィング」が流れます。

 しかし、映画全体を覆っている雰囲気は甘く切ないテーマ音楽と裏腹、その対比がかえって際だつようなシリアスな内容でした。

 第二次大戦末期のこと、フランスの田舎に暮らす主人公ルシアンは17歳。当時の多くの大衆と同じく戦争の状況など彼にわかるはずもありません。

 職場にも家庭にも居場所を見つけられないルシアンは、レジスタンス運動に加わろうとしますが、若すぎると断られます。

 父親の銃を持ち出してむやみに小動物の殺戮を繰り返す仕草に、ルシアンの心の闇と虚無が見えます。

 彼はある夜、ひょんなことからナチの仲間に捕まり、そのままナチの手先として働くようになります。若く無学な彼にことの善悪を判断する思慮があるようにも見えません。

 やがてルシアンはフランスという女性と知り合い、恋に陥ります。ルイ・マル監督は作品の初めから終わりまで、登場人物たちの感情を極力抑えて描こうとしているかのようです。

 この物語の中で何らかの人間らしいまともな感情と社会性を見せたのは、フランスの父親でユダヤ人の洋服屋オルンだけだったのではないかと思います。そんな彼さえ、最期は投げ捨てられるように葬り去られます。

 結局、ルシアンは暗い闇を抱きながら、時代の波にもてあそばれて、一瞬の火花のような時を逃亡中にフランスと過ごします。二人の屈託のない笑い声や大写しになった表情に、このときの二人の瞬間の悦楽と不安が見事に表現されているように思いました。

 不安をかき立てるようなフルートのソロがわき上がり、草むらに一人横たわるルシアンの姿。そこに彼がやがて捕まり、レジスタンスの軍事法廷で死刑を宣告され処刑されたことが字幕で流れて物語は終わります。

 物語の間、ジャンゴ・ラインハルトとフランス五重奏団の演奏が流れるのは、冒頭の一曲をのぞくと、あとはごく小さな音でわずかに挿入されるだけです。そしてフランスが弾くピアノ音楽、石畳を歩く登場人物の足音や荷馬車の音、草原の野鳥のさえずりがクリアに録音されているのが印象的でした。

 全部見終わって、ラストでフランスの顔が大写しになったとき、ようやく記憶の底から蘇ってくるものがあるような気がしました。何故忘れていたのか、たぶん「ルシアンの青春」というタイトルに惹かれて見に行ったのに、内容が全然違ってまじめで地味だったので、とまどってしまって印象に残らなかったのではないかと思います。

 

 今夜のDはやはりDjango Reinhardt(ジャンゴ・ラインハルト)の「マイナー・スィング」です。


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cafelamama

そらへいさん。
この作品、僕もタイトルに騙されました。
ルイ・マルで「ルシアンの青春」というタイトルだから、
ノスタルジックな青春映画を期待して観に行きました。
ところが、ナチス側に協力した青年の話を淡々と描いたものだったので、
僕もとまどいました。
普通、映画は戦争の犠牲者を描いたものが多いですが、
この作品は、あえてその逆の立場に立った人間を描いていました。
あれ以来観ていませんが、きっかけをいただいたと思って
もういちど観てみます。
by cafelamama (2012-09-14 22:00) 

su-nya

ジャンゴ・ラインハルトはカセットでしか持っていないのでもう聴けない!と思っていたらここで久しぶりに聴かせていただけました。ありがとうございます♪ジプシーの血を引いている、だからこの哀愁漂う旋律なのですね。ロマの音楽にもなんとなく似ています。
マイナー・スウィングいいですね…アルバムカバーもカッコいいです!
映画も、ダイジェストで音楽とともに楽しめました。
育児中につき大好きな映画も読書も音楽も、みーんな「子供仕様」で自分の趣味は封印中ですが、ブログでこうやって楽しめるのですね、こっそり子供が寝ている間に。うふふ♪
by su-nya (2012-09-15 04:36) 

himanaoyaji

ワンコインでJAZZ楽しめるのは良いですね、
私も昨日3枚組/1000円 のCD2セット買ってきました (^-^)。
by himanaoyaji (2012-09-15 06:09) 

駅員3

その映画は見たことがありませんが、あらすじをうかがうと、どうも私には苦手の分野のようです[冷や汗][あせあせ(飛び散る汗)]
でも音楽は聴いてみたくなりました!
by 駅員3 (2012-09-15 09:33) 

たいへー

ジャズやクラシックは安いんですよね。
私の青春は・・・ラジカセにかじりついて
音楽をカセットにエアチェックすることでしたね・・・^^;
by たいへー (2012-09-15 11:17) 

sigedonn

ごぶさたです。
聴いているとちょっと不安になるような演奏です。
生い立ちから来る哀愁でしょうか。
映画の話を読んだせいでしょうか。
by sigedonn (2012-09-15 11:23) 

そらへい

cafelamamaさん
こんにちは

「ルシアンの青春」というタイトルから受けるロマンチックなイメージとは
少し違った映画でした。
映像も美しさをねらうというよりは、ドキュメンタリー風だったのではないかと思います。
導入からラストまで突き放したような映画作りは見るものに色々と考えさせます。
時代の流れに飲み込まれてしまう民衆、若者、加害者側であればあるほど
その悲哀が伝わってくるような気がします。




by そらへい (2012-09-15 11:42) 

そらへい

su-nyaさん
こんにちは

ジャンゴ・ラインハルトはジャズ・ギターでは草分けなのですが
生まれがヨーロッパのため、本場アメリカのジャズ・ギター界に
与えた影響は限定的だったそうです。
それだけにヨーロッパオリジナル、ジプシーの血を引いた哀愁が
印象的です。
まだ、ちらっと拝見しただけなのですが
育児日記風の4コママンガ、ウィットが効いていて面白いですね。
私のブログも少し固めなのでなんとか笑いをと思いながら
ついつい肩に力が入ってしまいがち
反省のこのごろです。

by そらへい (2012-09-15 11:49) 

そらへい

himanaoyajiさん
こんにちは

ジャズCD3枚組が1000円とはお買い得ですね。
CDはそのままipodに入れられるのでいいですね。
by そらへい (2012-09-15 11:51) 

そらへい

駅員3さん
こんにちは

この映画、どちらかと言えば暗いでしょうか。
暗くて哀しいですね。
駅員3さんの明るくさわやかなキャラクターとは
少し相容れないかもしれないですね。
by そらへい (2012-09-15 11:53) 

そらへい

たいへーさん
こんにちは

レコードはジャズはまだそこそこですが、
クラシックは気の毒なくらい安いですね。
カセットでエアチェックに興じていた青春・・・
それも時代の影響をもろに受けていますね。
今や初代ウォークマンが博物館入りする時代です。

by そらへい (2012-09-15 11:56) 

そらへい

sigedonさん
こんにちは

不安というか、独特の哀愁を感じさせる演奏ですね。
映画は、ミステリーでもなんでもないのに
フランス映画独特の不安感をかきたてるようなところがあります。
ヒロインの顔のアップの意味がわからず
それだけに不安感を掻き立てられます。
by そらへい (2012-09-15 11:59) 

song4u

あー、ぼくも映画が観たくなりました。
正確に言えば、以前のようなちゃんとした環境で観たい。
今は臨時の環境で観ているんですが、いつまで臨時なのか?
どうしてちゃんとした環境を整備しないのか?
やりたいことがたくさんあって、とても手が回らない・・・
なんてことでもないハズなのに。

最近、何だか中途半端なんですよね。
昔から中途半端なのは筋金入りなんですが、近頃はそれに
一段と磨きがかかって来ました。
うーむ、何とかせねば。(しっかりしろよ、おい!^^;)
by song4u (2012-09-15 18:53) 

そらへい

song4uさん
こんばんは

私も中途半端という意味では、引けを取りません。
あっちに手を出しこっちに手を出し、どれも極めるところまでは程遠い・・・

まだ秋というには暑い日が残っていますが
久しぶりに、自分一人でビデオ映画を見ました。
棚には、いずれ見ようと貯めてあるDVDが幾つかあります。
私の映画鑑賞システムなどはかなりいい加減な機器の寄せ集めなのですが、アンプを繋ぎスピーカーにお気に入りのセレッションにつなぐようになって、映像だけでなく音も楽しめるようになりました。
それも映画館で味わうこれみよがしなサラウンドではなくて
本当にピュアな音が映像に重なって出てくるので
粗末なシステムですが、大いに満足しています。
by そらへい (2012-09-15 19:16) 

プリウス

そらへいさん、こんばんは!!
ジャンゴは、つい最近知りました、、その指の障害の原因も、、、。
そんな苦難を乗り越え、、独特のギター奏法を生み出す努力に、敬意を評します。
・・ジャンゴロジーを入手して、楽しみました、、。・・
by プリウス (2012-09-15 20:42) 

夏炉冬扇

お早うご゛さいます。
映画館ではありませんが、夏の「涼しい場所」探しは私も…
by 夏炉冬扇 (2012-09-16 07:58) 

末尾ルコ(アルベール)

こうした映画をたとえば10代のときに観ておくって、人生にとってとても大切な経験になると思いますよね。

                            RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2012-09-16 08:06) 

そらへい

プリウスさん
こんにちは

家が燃えたのではなく、キャラバンが燃えたというあたり
ジプシーの生活そのものですね。
ジプシーもまた、ユダヤのようにナチに追われていたそうです。
彼は、ヨーロッパに突然変異のように咲いたジャズの花ですね。
私が持っているCDもジャンゴロジーでした。
by そらへい (2012-09-16 18:13) 

そらへい

夏炉冬扇さん
こんにちは

田舎だと緑陰とか田舎家の広い座敷などに逃げることもできますが
都会は、映画館か喫茶店、あとは公共施設くらいでしょうか。
朝晩は、さすがに必要ありませんが、昼間はまだまだ涼しい場所
探したくなります。

by そらへい (2012-09-16 18:16) 

そらへい

RUKOさん
こんにちは

突き放すような表現方法に返って
いろいろ考えさせられました。
若いときはその表現方法が取っつきにくかったかも・・・

by そらへい (2012-09-16 18:19) 

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