春待ち顔 [読書]
あまり長い間、引っ込んでいると忘れられそうなので出てきました。いえ、私ではなくオオイヌノフグリです。他の方のブログでお見かけしたので、もしやと思ってわが裏庭を見てみたらいつの間に咲いたのでしょう。思ったよりたくさん咲いていました。
もっとも咲いていたのはオオイヌノフグリだけでした。その方のブログには、ほかにヒメオドリコソウやハコベもありましたが、わが裏庭はまだ褐色の冬景色が濃いようです。
ブログを休んだこの3週間、ずいぶんゆっくりできた気がしています。念願の本もぼちぼち読めていますし音楽も聴けています。寒い日、ストーブのそばでお気に入りの音楽を聞いたり、本を読めるのがすごく幸せに思えました。
中途半端のままになっていた、旧XPパソコンから新7パソコンへのデーター移行もようやく完了しました。今まで二台のパソコンに囲まれていてうっとおしかったのが、パソコン一台だけになって机の周りはずいぶんすっきりしました。
古いパソコンは、まだXPが何とか動くので母屋に持って行きました。ただ動作がかなり重くなっているので一度リカバリをしようとしたら、ハードディスク内にあるはずのリカバリプログラムが見つかりません。
どうもこのあたりから調子がおかしいのです。フォルダがあることは確認していたので、バックアップCD捨ててしまってました。メインのパソコンではないのでこのまま使い続けるしかなさそうです。
さらに追い討ちをかけるように、先日下書きしてあったブログ記事がどこを探しても見つかりません。なかなか更新の意欲が沸かなくて、やっと書き出したものだったのです。
ウインドウズ7には強力な検索機能があるそうなので、パソコン内を検索してみましたが出てきません。そんなつもりはないのですがおそらく保存しないで終了してしまったのでしょう。
ブログを休んで時間に余裕を持てるようになったのは良いのですが、反面少しだらけて緊張感のない日々を送っている気がします。忙しさと充実は紙一重、余裕とだらけも紙一重なのかもしれません。
ここへ来てなんとなく浮かぬ気分が続いているのは長い冬のせいでしょうか。ブログを書かなくなってリズムが狂ってしまったのでしょうか。せめて暖かくなってくれたらと春待ち顔のこのごろです。
ブログを休んでいる間に読んだ本のひとつ出久根達郎著「朝茶と一冊」です。市立図書館の「本のリサイクル」でもらってきた本のうちの一冊です。
この著者の本は以前、短編集か何か読んだ記憶があります。その時少し後味のすっきりしない読後感があったのですが今回、もらい物の本にもかかわらず面白かったですね。
著者は直木賞作家ですが、元古本屋の店主、さすがにたくさんの本を読んでおられます。これは書評と言うよりエッセイのようなものと著者自身がおっしゃっているように肩の力が抜けた読み物になっています。なにより著者の立つ位置とか目線がはっきりしていて読んでいて共感することが多々ありました。
この本の中で映画「お熱いのがお好き」の監督ウィリアム・ワイルダーのこんな言葉が紹介されていました。
『人々は、その場に居合わせたいのさ。最高の観客となって、他人の笑い声を聞きたいんだよ』
この言葉で思い出したのがおなじみの「男はつらいよ」です。私は少し晩生で初めて観たのは第10作目の「寅次郎夢枕」です。マドンナは八千草薫さんでした。それまで食わず嫌いだったのですが友人に誘われて一緒に見に行きました。
お正月で映画館はもちろん満員でした。初めて見る寅さんはその表情、おしゃべり、しぐさどれをとってもおかしくて、哀しいのです。思わずクスッと笑ったり、大笑いしたり、しんみりしたり。
それが私一人ではありません。私が反応するのと同じように、そこにいる誰もが寅さんの一挙手一投足に声を揃えて笑い声をあげます。まるで映画と観客が一体化したかのようです。
この映画の時だったかほかのシリーズの時だったか忘れましたが、「よ、寅さん」と歌舞伎みたいに声がかかったり、映画が終わった後で拍手が起こったりしたことがありました。
私はそれまで映画を見る行為と言うのは、孤独な作業と思っていました。友人や恋人と一緒に行っても、幕が開き照明が落ちるとそれぞれが自分の世界に没入する。
そう思っていたので、この体験は新鮮で感動的でした。以来、寅さん映画にすっかりはまってしまい、マンネリと言われるようになっても見続けました。映画館で他の人たちと笑いを共有する楽しみもあったのだと思います。
田舎に帰って始めての正月のことでした。「男はつらいよ」はすでに30作目前後になっていたと思います。生活スタイルはすっかり変わってしまいましたが、やはりお正月は寅さんは見ないわけには行きません。京都へ行く手もあったのですが、ふと高校のあった街にも映画館があったことを思い出し出かけました。
商店街のはずれにある映画館はお正月の華やぎがありませんでした。嫌な予感に包まれながら中に入ると、案の定、がらんとした館内、先客が4.5人、適当な距離を取って座っているだけです。しまったと思いましたが、もう引き返せません。
寅さんはいつもの寅さん、笑いの勘所も同じなのに、館内にはどっと響く笑い声がありません。そのとき見たシリーズのタイトルもマドンナも忘れるくらい、あんな盛り上がらない寅さんを見たのは初めてでした。
本を読むといろいろなことを考えたり、思い出したりします。今回も「朝茶と一冊」を読んでいろいろなことが頭をめぐったのですが、そのうちの一つが寅さん映画の思い出と結びつきました。