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4月の思い出 [日々]

DSC_0934.JPG 我が家の桜、三分咲き

 

 さて、心の準備もままならないままに、当日を迎えることになりました。その日は朝から嵐の予感の吹雪、しかも公園で植樹があり、出役に当たっている私は年度最後の奉仕作業に、スコップを持って参加しました。

 作業自体は1時間ほどで済みました。そのあと、夜に町内会の役の引継と慰労会があるので、会計報告等の引継資料を作成しておかないといけません。

 もっと前にやっておけばよかったのですが、簡単と侮っていたらいつの間にか当日になってしまってました。見直しをしてプリントアウトするだけなのに、これがはやり常と違うのか、つまらない失敗を何回も繰り返す始末。

 何となく身体が宙に浮いているような、心ここにあらずの状態です。こういう精神状態の時に、ふさわしい作業ではありませんでしたが、何とかお昼までには片を付けることができました。

 午前中降ったりやんだりしていた雪も午後になってなんとか収まったようですが、約束の時間が近づいてくると、私はいよいよ落ち着きが無くなってくるのが自分でもわかりました。

 居間と座敷の間を行ったり来たり、座って待つこともできず、かと言って外に出て迎えに行くこともできません。以前にもこんな状態になったことがありました。初めての子、息子が生まれるのを産院の控え室で待っていた時です。

 妻はもっとじっとしていられないらしく、何処へ行ったのか私のそばにいようとさえしません。この日がつかづくに連れ、私たちはなんども顔を見合わせては、気が重いと繰り返していたのですが、当日、二人ともここまで狼狽し、落ち着きを失うとは思ってもいませんでした。

 娘の車がガラス戸越しに見えました。確かにひとりの見知らぬ青年が横に乗っているようですが、遠くてはっきり見えません。妻が走ってきて「来たよ」と言いました。やがて玄関があき、ニコニコ笑っている娘の横に、スーツを着た見知らぬ青年がかしこまって立っていました。

 私は動揺を抑えながら、とりあえず初対面の挨拶を交わし、大人の鷹揚さを見せて、彼を座敷に迎え入れ席を案内しました。

 昔、弟が彼女を連れて来たときと同じところ、上座に座ってもらいます。私は座敷机を挟んで、その向かい側に陣取ります。ただ、その時、弟は私と彼女の間の席に座ったのに、娘は勝手知ったる自分の家、座布団を自分で取ってきて青年の横にちゃっかり並んで座ってしまいました。

 この陣形ですでに態勢は決したようなものです。私の視線、舌鋒は常に彼女に見張られている状態になります。少しでも否定的なことを言おうものなら、「お父さん」と鋭い視線が飛んできそうです。

 暖房が効きすぎていたのでしょうか、青年が自己紹介している間、私は一生懸命耳を済ましていましたが、熱があるみたいに体がフワフワしていました。

 いつも私たちに仏頂面を見せている娘が、この日は笑顔を見せながら、しおらしくしている姿も忌々しいものでしたが、その横の青年の顔を見、声を聞きながら、普段からテレビでイケメンのタレントに熱を上げていた娘にしては、ずいぶん普通の青年だなと思うのが唯一の抵抗だったでしょうか。

 結局、対決とは名ばかり、娘を取りに一人敵地に乗り込んできている青年の意気込み、気合いに比べたら、父親の悲哀などあまりに無力です。予定通り、追認することしかできませんでした。

 ただ、いつもこの娘は難題をもちかけて来るのですが、今回の悩みの種は、二人が結婚式を挙げたくないと言っていることです。娘からちらっと聞いてはいましたし、今時のこと、地味婚も悪くはないのですが、正式に言われてみると、すっとそれで良いとも言えません。

 とくにこちらは昔からの田舎、親戚づきあいも多いので何もなしでは済みそうにありません。まして娘たちは生活基盤がこちらなので、これから親戚と顔を合わす機会もあると思います。式はともかく、せめてお互いの親戚が集まったお食事会くらいは開こうと言うことで、その日は話が付きました。

 話が終わって、帰りがけ席を立った青年の様子がおかしいと思ったら、慣れない正座で足を痺れさせたようです。新米バレエリーナーみたいにぎこちない足取りで、つま先を下に向け引きずるように歩いてました。何度か足を崩すように促したつもりでしたし、彼も崩したように見えたのですが、そうでもなかったんですね。

 yokoさんの家では、青年は犬にじゃれられてスーツを毛だらけにして帰って行ったそうですが、我が青年が足を痺れさせて帰って行く姿を見て、私はわずかに彼に対する視線が和らぐのを感じました。

 

 I'll Remember April・・・失恋の歌らしいのですが、ジョー・スタッフォード切々と歌い上げていますね。

 



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駅員3

お疲れ様でした[わーい(嬉しい顔)][手(パー)]
そしておめでとうございます[ぴかぴか(新しい)]
新しい家族が増えますね[ウィンク][るんるん]
by 駅員3 (2011-04-08 22:07) 

ケンタパパ

この先思い出に残る長い一日だったのではないでしょうか?きっとその青年もそう思ってるでしょう。
by ケンタパパ (2011-04-08 22:24) 

FUCKINTOSH66

ハラハラドキドキ、ちょっとクスっ(失礼っ!)としながら拝読。
ドラマ/映画の一場面のように絵が浮かびました〜。
そらへいさん、とっても優しいお父さんですね。
と同時に、そらへいさんが奥様のご実家にご挨拶に伺われた時は
どんな風だったんだろう?とか勝手に想像しました。
ご両家でお食事の地味婚、無駄に高額なド派手結婚式を
親持ちで懇願されるよりずっと親孝行なんじゃないかと〜。

by FUCKINTOSH66 (2011-04-08 23:36) 

しばちゃん2cv

ん~ ウチの息子たちはどんな嫁さんを見つけるのでしょう・・・
でも、同じ子供でも娘と息子ではお父さんの気持ちは全然違うでしょうね。
by しばちゃん2cv (2011-04-09 06:57) 

たいへー

これも「四月の思い出」には違いありません。^^;
私も単身「敵地」に乗り込んだ口ですから、
いずれやり返されるでしょうね。
by たいへー (2011-04-09 08:16) 

himanaoyaji

いやいや,ほんとに、お疲れさまでした、
明日は我が身です、(来て欲しくも有り、来てほしくも無し・・・)
by himanaoyaji (2011-04-09 09:11) 

tromboneimai

息詰まる対決でしたね(笑)
でも彼の方がきっと緊張していたんでしょうね。
うちは二人娘いるので、気重です^^
by tromboneimai (2011-04-09 09:33) 

そらへい

駅員3さん
こんばんは

ありがとうございます。
家族が減るのではなく、新しい家族が増えるんだと
思いたいと思ってます。
by そらへい (2011-04-09 19:56) 

そらへい

ケンタパパさん
こんばんは

ひょっとすると私たちより、彼の方が
印象深く残るのかも知れませんね。
吹雪の朝でした・・・
by そらへい (2011-04-09 19:58) 

そらへい

FUCKINTOSH66さん
こんばんは

その後、娘から彼が「優しそうなお父さんやね」と言っていたと聞いて
ますます、彼に対する矛先が緩んでます。
これって、二人の作戦ではないでしょうか。
妻は次女だったので、義父は免疫があったのか終始フレンドリーでした。
義姉の時は大変な剣幕だったそうで、擬姉の彼に向かって「何処の馬の骨」と言ったのだそうです。
ジミ婚、そういう考えもありますね。二人とも我が家のことを気遣ってくれたのかも、そう思うと偉く親孝行な二人、むしろこっちの方が力不足をわびないといけないですね。
by そらへい (2011-04-09 20:06) 

そらへい

しばちゃん2cvさん
こんばんは

これからは、田舎もどんどん旧来の田舎的なものの考え方は
変わっていくと思いますが、
しばちゃん2cvさんとこも滋賀で我々のところと似た感じ、
どうしても男の方は嫁さんをもらう方、女の子の方はやる方
と言う考え方があって、にぎやかになる方と寂しくなる方の違いが
あると思います。
最近、かなり崩れてきていますが・・・
by そらへい (2011-04-09 20:10) 

そらへい

たいへーさん
こんばんは

この身になってみて、初めて
娘さんを嫁に出したり
息子さんを外に出したりしている知り合いや親戚の
親の気持ちがよくわかるようになってきました。
by そらへい (2011-04-09 20:13) 

そらへい

himanaoyajiさん
こんばんは

やはり息子が彼女を連れてくるのとは、
違うような気がしますね。
ま、どっちも心配はありますが
案ずるより産むが易く、親はなくても子は育つのですが・・・
確かに、来て欲しいような来て欲しくないような複雑な気分ですね。
by そらへい (2011-04-09 20:16) 

そらへい

tromboneimaiさん
こんばんは

たぶん、おっしゃるように彼の方がずっと緊張していたと思います。
yokoサンのブログにもあるように、服装からして私たちはほぼ普段着でしたしね、心構えが違いました。
娘さんおふたりですか、それは大変ですね。
二度この思い、でも2度目は多少免疫ができていると思いますよ(笑)
by そらへい (2011-04-09 20:20) 

yukky_z

家に桜の木があるなんて凄いですよね~!
もしかして、去年も同じリアクションをした
かも知れませんが? うちには梅の木がありますが、
それだけでも結構珍しがられてます^^
by yukky_z (2011-04-09 22:56) 

ken

4月の思い出・・いいですねほんとに切々と歌い上げてますね
青年の気合いれた感じ伝わってきます。
4月の思い出か・・と何があるかなと考えてでてくるのは家内の
誕生日に京都の夜桜を見にいってお祝いしたことかな・・
あとは千葉に転勤できた時に転校で泣いてた上の娘
てなところです。
by ken (2011-04-10 12:35) 

パパボン

「一時寂しいでしょうが、結婚して子供ができ落ち着いたら親のことを思うようになります・・・娘の場合は。」とツレさんが申しております。
確かにそのとおりです。
今は娘を産んでおいて良かったと実感しています。
楽しみが増えましたネ!(^^v

by パパボン (2011-04-10 15:39) 

b.b.mk2

一生懸命、誠意を見せられては何も言えませんね。
よいご家族が増えそうで何よりです。

ところで、もう20年も前でしょうか。青年と同じような年代の頃、挨拶にいく彼女の父親について、どんな父親だったら一番イヤか・・・というような話しを同年代の友人達と飲みながらしたことがありました。頑固一徹で無口な親父で落ち着くかと思いきや、ルパン三世のようなつかみどころがなく小器用なオヤジが一番イヤだということになったのを思い出しました。
by b.b.mk2 (2011-04-10 20:25) 

そらへい

yukky_zさん
こんばんは

家の敷地に桜があるのは良くないなんて聞きますが
もう樹齢100年ほどですからね。
梅があるお宅も珍しいかも知れませんね。
我が家は田舎なので、あと柿、南天、椿、などがあります。
by そらへい (2011-04-10 20:27) 

そらへい

Kenさん
こんばんは

新しい4月の思い出が増えました。
4月は新学期や新年度の始まり
それぞれ悲喜こもごもありそうですね。
奥さんとの京都での思い出、素晴らしいですね。
娘さんの涙、親としては切ないですね。
それも良い思い出なのでしょうが。

by そらへい (2011-04-10 20:33) 

そらへい

パパボンさん
こんばんは

確かに、今回を機に、娘の態度が少し変わってきたようで
そのことは妻も感じているようです。
離れることによって、もっと近づくこともあるのかも。
私の場合は、中学の反抗期からずっとぎくしゃく気味だったので
これを機にまた近づけるような気もしています。
by そらへい (2011-04-10 20:38) 

そらへい

b.b.mk2さん
こんばんは

面白い話ですね。確かに独身男性にとっては
将来の大事な関門、相手の親父さんて気になりますからね。
>ルパン三世のようなつかみどころがなく小器用なオヤジ
って、どんな親父なんでしょうね。
目の前に座りもせずにひょろひょろ動いているルパン三世を想像しているのですが・・・
そして、この場合、相手の男性に喜ばれた方がよいのか
嫌がられた方がよいのか・・・

by そらへい (2011-04-10 20:46) 

プリウス

こんばんは、プリウスです。
きっと空兵さんと同じように相手の男性も緊張していたのでしょうね。
自分が家内の両親に挨拶に行った時の事を思い出します。
今では娘が一人いますが、21歳になっても全く男性の気配も無く
休日もほとんど家の中、愛想も礼儀も無く・・・・・、
彼氏が出来るか心配なほどです。
by プリウス (2011-04-11 21:10) 

Studio-Oz

おはようございます。

とてもリアルに伝わってきますね。
僕にも娘が居りますが、嫁へ行く等遠い未来!
全く想像がつきません。(苦笑)
やっぱり緊張するんでしょうかね・・

どんな男を連れてくるか想像すると・・・
娘を大切にしてくれる人であれば誰でもいいのかな??
by Studio-Oz (2011-04-12 06:37) 

muzik

うちも娘ですが、こういうの読むと
来て欲しくない日です。
でも来ていただかないのも、困るし・・。
by muzik (2011-04-12 07:39) 

そらへい

プリウスさん
こんばんは

私は緊張と言うより落ち着かなかったのですが
彼は相当緊張していたようです。
その割には、よく頑張っていたようにあとから思いました。
親はなくとも子は育つと昔から言いますが
娘にはこれと言ったことは何もしていないのに、
いつの間にかですね。
プリウスさんもお年頃の娘さんがおられるようで
ある日突然、かもしれませんね。

by そらへい (2011-04-12 20:16) 

そらへい

Studio-Ozさん
こんばんは

娘が小学生や中学生の頃はとてもそんなことは信じられなくて
人に言われても、鼻で笑っていたのですが
いつの間にか、あっという間にこんな日が来てしまいました。
緊張というか、相手の男性はやはりかなり気になりますね。
もちろん、娘を託しても良い男性かどうか
と言うただ一点なのですが。
by そらへい (2011-04-12 20:20) 

そらへい

muzikさん
こんばんは

父親の心境は複雑ですね。
この辺の父娘の情愛を描いた小津安二郎の
「秋刀魚の味」と言う映画があるようで、
一度ゆっくりみたいなと思ったりしてます。
by そらへい (2011-04-12 20:24) 

ベルベット

よくよく考えると、同じ事をしてきた私。
当時、嫁さんの父親も戦闘態勢に入っていたんでしょうね。

TVで見た、光景を浮かべながら行ったもんですが、
そんな事なかったんでしょうね(笑)

次は自分の番です。


by ベルベット (2011-04-18 22:40) 

そらへい

ベルベットさん
こんばんは

父親は多かれ少なかれそういうところがあるのではないでしょうか。
とくに最初の子は、とまどうみたいですが2度目以降は多少免疫ができるみたいで、私は2度目の子の方だったので、多少風当たりは弱かったです。

次はベルベットさんの順番ですね。
来て欲しくもあり、来て欲しくもないその日をお楽しみに(笑)
by そらへい (2011-04-19 20:47) 

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