ブルーノート・コレクターズ・ガイド [読書]
ブルーノート・レコードのレーベルと言えば、左の写真にある白に青色が入ったデザインです。これは創業者のアルフレッド・ライオンが彫刻家マーティン・クレイヴに依頼したものだそうです。
ところが私が持っているブルーノート・レコードの中に、このデザインとは違うレーベルのものがあります。主に1970年代に買った輸入盤(当時ブルーノートは輸入盤しかなかったそうです)で、レーベル全体が濃い紺色に塗りつぶされ、黒字bのデザイン文字の中に音符のマークが繰りぬかれています。
またこの紺色レーベルのレコードは、オリジナルのレコード番号の前に8が付いて、5桁になっているのが共通した特徴です。
元々がモノラルのレコードであるのに、ステレオになっているということ自体、いかがわしげです。編集されて擬似ステレオ盤として再発売されたのでしょうね。1970年代初めの頃と言うと、ステレオどころか4チャンネルなんて言われていた時代です。ステレオ以下、つまりモノラルでは太刀打ちできなかったのかも知れません。
それにしてもオリジナルと違うレーベルデザインのブルーノートが存在すると言うことが気になります。まさか、偽物ではないのでしょうがこのレーベルのことはあまり聞いたことがありません。
で、ちょっと調べてみようと、図書館の音楽書籍のコーナーで見つけたのがこの本です。ぱらぱらっとめくってみたら、レーベルの写真が載っていたので、何かわかるかもしれないと借りることにしました。
かなり分厚い本ですが、巻末はブルーノート・レコードのディスコグラフィになっているので、実質は150ページほどです。面白くて一気に読みました。
内容は著者、小川隆夫氏がいかにしてブルーノート・レコードのコンプリートコレクターになったか、その馴れ初めから現代に至るまでを自伝的に綴ったものです。
読み始めてすぐ著者が私と同世代と言うことがわかりました。巻末の著者の経歴を見ると1950年生まれとあるので、私より一歳上なだけです。しかし、それにしては中学生ですでに「ゲッツ/ジルベルト」を聞き、マイルス・デイビスの初来日コンサートに行ったと言うのは驚きです。
私が中学生の頃、我が家の音楽環境はテレビしかありませんでした。当時、どのチャンネルでも歌謡曲のベストテン番組があり、どんなにがんばってもポップスの香りがするのはグループ・サウンドか加山雄三くらいのものでした。
同世代でありながら、この違いはいったいどこから来るのか、いぶかりながら読み進むうちに分かってきました。著者はお医者さんの息子でしかも東京は成城育ちの方でした。
この環境が彼をして、ブルーノート・レコードのコンプリートコレクターに仕立てていったことは間違いなさそうです。彼は中学生、高校生にして小遣いでいくばくかのレコードを買える身分でした。
かつ彼の周りには渋谷など東京の大都会があり、様々な情報を仕入れることができる店と人のつながりがありました。そういう土壌の上に、ブルーノートに対する愛情と憧憬、収集に対する情熱と、それに伴う資金があって成し遂げられたのだと思います。
15年にも及ぶコレクションの結果、著者はアルフレッド・ライオンからブルーノートのコンプリートコレクターであることを認められたそうです。また、整形外科医でもあり、ジャズに関する著作やレコード・プロデュース、DJなどもこなしてるそうです。
面白かったのは著者がアルフレッド・ライオンにオリジナル盤について質問したくだりです。ブルーノート・レコードには数々の不思議があるそうなのですが、その中のひとつ、レーベルにある溝(グルーヴというそうです)の有無について質問すると、ライオンは「なぜそんなことが重要なんだね?」と訝しがったそうです。
コレクターやマニアにとって大事なことも、直接、音や音楽には関係ないこと、当然のことながら、作った本人はそんなことぜんぜん気にしていないのですね。
全体的に日本のマニアはオリジナルにこだわりますが、欧米コレクターは聞ければよいというひとが多いそうです。その結果、精巧に作られた日本の再発盤がアメリカの中古店、オリジナルコーナーに混じっていたりすることもあるとか。
ほとんどのブルーノート・レコードを集めつくした著者はさすがにオリジナル盤に対する優れた目利きと見解があり、いくつかのチェック項目を持っています。
レコードが録音された時期が特定できるアドレス、録音技師ルディ・ヴァン・ゲルダーのRVGの刻印の有無、Rマーク、額縁ジャケット、グルーヴ・ガード、ジャケット・コーティング、ジャケット・デザイン、スタンパー、ディープ・グルーヴ、フラット・ディスク、耳マークなど多岐にわたっています。
ほぼ完璧なコレクションを極めた著者だから言えるのだと思うのですが、これだけしてもなお、ほんとうのオリジナル盤は発売されたそのときに買った人でしかわからないと言っています。こうなるとオリジナルコレクションももう神の領域ですね。
ブルーノートのプレミアム・レコードになると、マニアやコレクターは数十万円も出すことがあるのだそうです。ちなみにブルーノートでいちばんのプレミアムレコードは1568番の「ハンク・モブレイ」なんだそうです。
どんな演奏か、今ならレコードを持っていなくてもCDで聞くことができますね。
また、ブルーノートでトップ・セールスを記録しているのは、ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」だそうです。あの例のジャケットデザインですね。
http://www.youtube.com/watch?v=-j0k8EnNcT8
この本の中で、ブルーノートと言うレコードの存在は、ひとつの奇跡として語られています。まず創業者でありかつ優れたプロデューサーだったアルフレッド・ライオンの存在なくしてありえないことでした。そして彼の相棒でもあり、写真と経営管理を行ったフランシス・ウルフの存在、伝説的録音技師、ルディ・ヴァン・ゲルダー、カバーデザインを担当したリード・マイルス、この人たちが集まって稀有なレコード、ブルーノートが完成したのです。
ブルーノートには、若いジャズ・ミュージシャンのエネルギーが詰まっています。はじめクラシック・ジャズからレコーディングしていったライオンは、やがてモダン派の若手で粋のいい無名ミュージシャンを使う方向に切り替えて行きます。そして彼らによってブルーノートの名声とともに、次代のハード・バップが形作られていったのです。
そんなジャズのエネルギーの塊みたいなレーベル、ブルーノートの魅力に著者がはまり込んでいったのも無理のないことと思います。
残念ながら、この本には、私が疑問を抱いた紺色のレーベルについては、一行も書かれていませんでした。おそらく、語るに値しない存在、少なくともコレクションには遠くかけ離れた存在には違いないのだろうと思います。
ブルーノートのレーベルについては、かなりいろいろな種類があるようです。私が持っている青ベタ盤(などと呼ばれているそうです)レーベルについては、ネット等でただいま調査中、またわかり次第アップしたいと思っています。
所謂、音符ラベルですね。私も何枚か持ってましたが日本のキング盤同様、音質に関しては好みが分かれるようです。
by tempo (2010-12-03 23:23)
tempoさん
こんばんは
音符ラベルというのですか。
色いろあるようですね。
私は無頓着に聞いてましたので、音質の違い
これから検証してみようかなと思います。
ただ、私の装置、私の耳でわかるかどうか?
by そらへい (2010-12-03 23:52)
こんばんわ、
ココには面白いエピソードが沢山詰まっていますね!
読んでいて、ものすごく引き込まれてしまいました^^
是非、紺色ラベルの盤がどういった経緯のモノなのか辿り付いて欲しいと思います。
by munesue (2010-12-04 01:05)
私も1950年生まれです、
ジャズを知ったのは社会人になってからです。
by himanaoyaji (2010-12-04 06:38)
この本は知りませんでした。
紀伊国屋かアマゾンで探してみます!!
by 駅員3 (2010-12-04 11:14)
munesueさん
コメントありがとうございます。
単にレコードレーベルの話なんですが、
なかなか奥が深いようで、マニアの方が
マークひとつ、溝ひとつに躍起になるのもわかる気がします。
今まで、ジャズファンの割には、こういうこと無頓着だったので、
これからちょっと勉強です。
でも、音楽はあくまで聞くことが本来ですが・・・
by そらへい (2010-12-04 21:18)
himanaoyajiさん
こんばんは
ニックネームが変わっていたので、びっくりしました。
私も、もちろん大人になってからでした。
ただ、この本の著者がブルーノートのレコードを
本格的に集めだした1973年と言うと、私もジャズを買い始めていた頃
その後の差は、単に資金力だけではなさそうです。
by そらへい (2010-12-04 21:22)
駅員3さん
こんばんは
2006年発行なので、今も流通しているようです。
巻末の、チェック項目があるディスコグラフィも
ブルーノートを集めようとする人には便利そうです。
私は収集より、こういう本をきっかけに
もっと多くのレコードに出会えればいいなぁと思う程度です。
by そらへい (2010-12-04 21:26)
ん~
おもしろいですね。
じっくり読ませて頂きました。
by しばちゃん2cv (2010-12-04 21:42)
しばちゃん2cvさん
こんばんは
週一更新のせいでもないのでしょうが
私の記事は長文になりやすいので、
果たして読んでいただけるかいつも気にしています。
ありがとうございました。
by そらへい (2010-12-04 22:09)
こんにちは 久し振りです 位置もコメントありがとう御座います
ブル-ノ-ト、福岡ではJazzの生演奏する喫茶でしたが‥一度倒産し、最近又復活したそうです。ファンが多いから出来たのでしょう
レコ-ドとは知りませんでした。
ブログの文章、一気に読み上げましたヨ ラベルの色の事は不明だ ったのですネ 何時か解る時が来ると思います 楽しみ間待ってます
では また出て来ますけんで~
by ヤスミチ (2010-12-06 11:58)
そらへいさんこんばんは★お久しぶりです。記事、興味津々でなるほどなるほど、そ〜なんだ〜とあっという間に拝読しました!
紺色のレーベル、コレクターからみた価値うんぬんはひとまず関係なく、すごく気になりますよねえ。なにが知れるか解るかワクワクします。楽しみです♪
>欧米コレクターは聞ければよいというひとが多いそうです。
>その結果、精巧に作られた日本の再発盤がアメリカの中古店、
>オリジナルコーナーに混じっていたりすることもあるとか。
ありますあります! え?なんでNYにコレあるの?っていう。
私はジャズではなかったですけど、中1のときはじめて外タレバンドのライブを新宿に見に行きました。それ以降、音楽熱がガーっとあがったのを鮮明に覚えています。(もちろん我が家は特別裕福という家ではないので、ライブ代やレコード代は親に参考書を買うとか塾で○○が必要とか、適当なウソばかりついてせしめていました...)
by FUCKINTOSH66 (2010-12-06 14:15)
紺色のブルーノートのLPあるんですね、
小川孝夫さんの本は面白いですね、となりのウィントンというのを
この前読んでとても面白かった・・・
自分が初めて高校生の時に買ったJAZZのLPはケルンでした
by ken (2010-12-06 17:46)
ヤスミチさん
こんばんは
系列は違うと思うのですが、ブルーノートと言うお店、
東京、名古屋、京都にありますね。
大阪も以前はありましたが今は名前が変わりました。
福岡にもあったのは知りませんでした。
「ブルーノート」もともとは音楽用語なのでしょうが
ジャズのもっとも有名なレコードレーベルのひとつですね。
いろいろ変遷を経ながら、今も新しいアルバムを出しているようです。
by そらへい (2010-12-06 20:25)
FUCKINTOSH66さん
こんばんは
冬篭りの製作の途中の息継ぎですね。
「ブルーノート・コレクターズ・ガイド」の著者、小川氏は
二度にわたるアメリカ留学で、かなりコレクションを進められたようです。
本場だと、こちらより安くかつ思いがけない掘り出し物があったらしいですね。もちろん、少し前の時代の話ですが。
都会の子の早熟には田舎者は適いませんね。
以前もコメントしましたが、
秋葉原でレコードを漁っていたら、小学生が
ビートルズのレコードを小脇に抱えてレジに行ったのを見たときは
激しいカルチャーショックを覚えました。
まだビートルズが解散して間もない頃でした。
by そらへい (2010-12-06 20:32)
kenさん
こんばんは
小川さん、ほかにもたくさん著作があるようですね。
また、見つけたら読んでみたいと思います。
肩肘はらない力の抜けた文章で、すっと入っていけました。
高校生でケルン・コンサートですか。
時代の違いもあるんでしょうね。
私の時代は、ステレオもまだ各家庭にありませんでしたしね。
18歳か、19歳、初めてFMが聞けるラジオを友人からもらって
ようやく音楽が聞ける環境が整いました。
by そらへい (2010-12-06 20:38)
私も、2つのレーベルの違いが不思議でした。
意味があるのか、単なるデザイン変更なのか???
まあ、私はまだ「聴ければいい人」なので、
オリジナルには拘っておりません.(笑
by たいへー (2010-12-08 13:03)
たいへーさん
こんばんは
レーベルデザインの違い、良くあることですが、どうも経営権が変わったのが原因のようです。
その後、オリジナル性が見直されて、本来の姿にもどって
何回か再発売されているようです。
理論的に行っても、原盤に近いオリジナルの方が
音は明確なのでしょうが何万、何十万出すのなら、
まだまだ聞いていないレコードに出会う方を優先したいですね。
by そらへい (2010-12-08 20:30)