マッチコレクション「旅路」 [マッチコレクション(その他)]
台風、雨、異常に早い梅雨入り、この時期にしては低温、それでも自然は、いつもの営みを続けて、6月の暦をめくると同時に、今年もドクダミの白い花が咲き始めました。
リニューアルオープンに当たって、オリジナルフォトヘッダーを何にしようか迷ったのですが、マッチコレクションの画像があったのでコラージュしてみたら意外としっくり来ました。
ここにあるのは、ジャズ喫茶ばかりです。そのお店の紹介については、すでにブログで取り上げたものがいくつかあるのですが、取り上げていないお店の方が圧倒的に多いと思います。
もちろんこのコレクションは、どのお店も一度は行って自分でマッチをもらってきたものばかりなのですが、何せ3、40年前の話。マッチは残っていても思い出が残っていません。それどころか記憶さえないものもあります。
思い出せるものはおいおい思い出して紹介していくとして、とりあえずは、ジャズ喫茶に限定しないで覚えているお店、思い出があるお店のマッチを、思い出とともに紹介して行こうかなと思います。
まず1番目は、「旅路」のマッチです。と言っても知っておられる方はほとんど無いと思いますが、名古屋の大学にいたとき、少しだけ通ったお店です。店はそれほど大きくはなかったのですが、照明を落とし気味にした落ち着いた雰囲気のお店だったと記憶しています。
このお店は、友人のsatoが見つけてきてよく通っていました。それにつられて私も何度か一緒に行きました。主に夜で、食事をしながらお酒をいただきましたが、学生が行く店としては少し贅沢だったのかも知れません。
若いご夫婦で切り盛りされていました。長身で優しそうなご主人と、小柄で可愛い奥さんのお二人で、まだ生まれて間もない幼いお子さんが一人おられように記憶します。
ご主人はサラリーマンのように髪を七三にきちんと分けた端正な出で立ちの方でしたし、奥さんもこういうお店の女将さんにしては控えめな感じの方でした。私たちが夜遅くまでお店を占領していると、途中で奥さんだけが赤ちゃんを寝かしつけに自室に戻られるなんてことがあったように思います。
何度か通う内にお互いうち解けあって、どんな経緯だったかは忘れてしまいましたが、ご主人が自分たちのことを語ってくれたことがありました。
その話によると、ご夫婦は長野県から名古屋に出て来てこのお店を開かれたのだそうです。何でも元は長野のどこかの小さな町役場の公務員だったとかで奥さんもその頃知り合われたようです。
そのせいか、どこか商売ずれしたところのない、清潔さと端正さを併せ持った雰囲気が店内にあって、そういうところがsatoを惹きつけていたのだと思います。反面、素人商売の危うさのようなものもあったのかも知れません。
料理の味の方は、今でも私は味音痴と妻に叱られているほどですから、当時の私にはどんなおいしい料理も豚に真珠だったと思います。ただ海育ちのsatoが通っていたのですから、魚料理などは新鮮だったのだと思います。また、学生の身分で行けたのですから、お値段の方もリーズナブルなものだったと思います。
私がこのお店で出されて強烈に覚えているのは、雀の姿焼きですね。あまりにもそのままの姿だったので、食いきることができませんでした。
私は20歳の頃、大学をやめて上京してしまったので、その後「旅路」のことはすっかり忘れていたのですが、上京してどれくらいたった頃でしょうか。satoが東京に遊びに来た折りに、「旅路」の消息を教えてくれました。
ご夫婦が離婚してしまったこと。たぶん商売の方は、あの奥さんにはあわなかったのではないでしょうか。そして、お店がうまくいかなくなって人手に渡ってしまったことなどを、satoは酒を飲みながら彼独特の愛情表現で愚痴っていました。
「ばかなんだよねぇ、、あんな可愛い奥さんと分かれてしまってさ・・・」彼のお気に入りのお店が無くなってしまったことへの嘆きと、彼が好きだった「旅路」とそのご夫婦がいい人だっただけに、そんな結果になったことへの悔しさがその口調には滲んでいました。
もちろん、私もショックでした。お二人ともいい人でしたから、離婚、店じまいという世間の荒波にもまれてしまわれたことが、人ごとながらも残念に思え、その後のお二人の身の上をいろいろと考えてしまいました。
公務員という安定した職を捨てて、都会に出て念願のお店を持つ、その夢と生き様には共感できるしむしろ応援したくなるような凄いことだと思うのですが、夢は達成することも大切ですが、と言うか達成した瞬間夢ではなくなり、今度はそれを継続させる難しさがどっとのしかかってくるのですね。
その後、お二人の消息は知りませんしsatoもおそらく知らないと思います。どうぞ、二人のその後が穏やかなもの、修復可能なものであったことを願うばかりです。まだお二人は若かったので、きっとどこかで再起されて、ひょっとしたら二人でやり直されていたかも知れません。
それにしても二人とも、今頃はリタイアされている年頃かも知れませんね。なにせ、もう40年近く昔の話なんですから。
ちなみにこのころ、世間は荒れすさんだ学生運動の嵐もようやく沈静化し、若者たちはエネルギーのもって行き場が無くなって消沈し、音楽なども過激な主張を声高に歌うフォークなどから、甘いメロディーが中心の音楽へと変わっていきました。
洋楽ではレッド・ツェッペリンがデビューしているようですが、私はこのころ友人からもらったFM付きラジオで喜んでいたので、聞いていたのは深夜放送で流れる日本の曲ばかりだったと思います。
たぶん、こんな歌を聴いていたのかも知れません。
トワ・エ・モア/或る日突然
引き込まれて一気に読んでしまいました。
旅路のご夫婦の結末はとてもショックです。事実は小説よりも・・・っていうことでしょうか。ただ救いは、そらへいさんも書かれているように、この結末は、まだ途中だっていうことです。その後のお二人の旅路に幸が多く、ハッピーエンドであることを祈るばかりです。
リアルタイムではありませんが、トワ・エ・モアのこの曲はよく知っています。この頃のお話しなんですね。
by b.b.mk2 (2011-06-03 21:14)
b.b.mk2さん
こんばんは
私はこういう性格ですから、安全に安全にとシフトして行く方なのですが
私が旅をしていた間にすれ違ったたくさんの人たちの
それぞれの生き様の一つ一つが胸に残っている気がします。
旅路のお二人がその後どうなったのか、
私が知っているのは、この時までのことだけですね。
by そらへい (2011-06-03 21:57)
ん~ 読ませますね~
私も学生時代に通ったお好み焼き屋があります。
どうなってるんやろ~
by しばちゃん2cv (2011-06-03 22:44)
しばちゃん2cvさん
こんばんは
そういえば、大学の寮の近くにあった
おばちゃんがやっていた焼きそばやさん
そこで三島由紀夫、市ヶ谷駐屯地での事件のニュースを見てましたね。
by そらへい (2011-06-03 22:51)
沁みる話をありがとうございました。
自分の記憶の中に こういった話があったようななかったような。
今少し記憶を手繰り寄せています。
by kurakichi (2011-06-03 23:09)
私も学生の頃よく行った、高齢のおばちゃんが一人できりもみしていたおでん屋を思い出しました。
by ケンタパパ (2011-06-04 01:22)
早い梅雨入りなんですね。
瑞々しいドクダミの花が鮮やかです。
お店「旅路」のマッチ、時の流れを感じます。
そこには、ひとつの物語が凝縮しているんですね。
その後のご夫婦をつい心配してしまいます・・・。
若気の至りは、誰もが通る道なのかもしれません。
by kasumi (2011-06-04 05:56)
豊国通り、 すぐ側の地下鉄「中村公園駅」 1971年~
約10年住んでましたよ(今の住まいは違う場所ですが)
懐かしい場所ですよ。
by himanaoyaji (2011-06-04 05:59)
マッチのコレクションは奥が深いですよね
しかもご自分の思い出に被さっているのですから、計り知れない価値が在りますね
by 駅員3 (2011-06-04 08:29)
人生、どうなるか分からない・・・そんな感じですねぇ。
頑張ったって報われない時もあるし。
そのマッチは、そんな思いが染みついているのでしょうね。
by たいへー (2011-06-04 08:30)
学生時代、ぼくもマッチを集めてました。
と言うか、その頃、マッチ集めは普通の行動だったように思います。
マッチは必要な道具だったし、だから広告ツールとしても有効でした。
そうですよね、やっぱり喫茶店のマッチが圧倒的だったように思いますね。
大きさも形も色もデザインも全然違うマッチ・・・何だか懐かしいです。
でも、今も続いているお店はその内の数%なんでしょうね。
by song4u (2011-06-04 15:06)
そういえば・・・自分も学生の時にマッチ集めてました・・
どこにいったやら結構な数あったんですが・・
特に名曲喫茶のマッチなんぞ涙ものでしたが・・
社会人になってからスナック、クラブのライターなんぞ集めて
ましたが・・それもどこかにいきました。
by ken (2011-06-04 18:41)
kurakichiさん
こんばんは
同じ人と人のめぐり合いなのですが
都会で出会った人たちとの思い出は
峻烈ですね。
by そらへい (2011-06-04 20:50)
ケンタパパさん
こんばんは
若い頃の行きつけのお店って
忘れられないものですね。
by そらへい (2011-06-04 20:53)
kasumiさん
こんばんは
10日間ほどほとんど雨の日が続きましたが
昨日あたりからやっと少し日差しが出るようになってきました。
同時の梅雨独特の蒸し暑さです。
この時期になると、梅雨のないそちらが羨ましくなります。
若気の至りに対する代償は小さくはありませんが
それもまた人生ですね。
by そらへい (2011-06-04 21:00)
himanaoyajiさん
こんばんは
そうですか、あのあたりにおすまいでしたか。
もっとも、ほとんど通りも忘れてしまいましたが
あの頃、地下鉄はまだ中村公園駅まででしたね。
1971年、私とはすれ違いですが、「旅路」はまだ存在していました。
懐かしの地を一度訪ねたいと思いながら
未だに果たせずにいます。
by そらへい (2011-06-04 21:05)
駅員3さん
こんばんは
マッチコレクションには、思い出の詰まったものと
ただコレクションだけのものとあります。
ジャズ喫茶や音楽喫茶以外のお店のマッチは
デザインもありきたりだったり平凡なものが多いですね。
by そらへい (2011-06-04 21:08)
たいへーさん
こんばんは
本当に、人生は先がどうなるかわかりませんね。
このマッチは、デザイン的には平凡ですが
若いお二人の夢が詰まったマッチだったのでしょうね。
このころは、マッチコレクション、意識していなかったのに
よく残していたと思います。
by そらへい (2011-06-04 21:11)
song4uさん
こんばんは
おっしゃるとおり昔はどこのお店もマッチを常備して
宣伝媒体として利用してましたね。
私はあまり収集癖のある方ではなかったので
マッチの収集は珍しい方です。
しかも、意識したのはジャズ喫茶のマッチを集めだしてからです。
それ以外のマッチは思い出の縁に取っていたのだと思います。
もちろん、その頃はよくタバコも吸いましたから・・・
もちろん、よくタバコも吸いましたから・・・
by そらへい (2011-06-04 21:20)
kenさん
こんばんは
私が東京生活で持ち帰ったのは、
オーディオとレコードとマッチのコレクションでしたね。
いずれも息を吹き返して今も現役です。
ほんとに最近はマッチを置いているお店が少なくて
代わりに店名の入ったライターですね。
もっとも、マッチほど気軽にはいただけませんが。
by そらへい (2011-06-04 21:24)
マッチに在る想い出。素敵ですね! そらへいさんのエピソードはいつも情景が映画のように目の前に現れて動くところが凄いです。とても絵的で短編小説のよう。 ご夫婦の離婚後、お子さんはどうされたか気になります。3-40年前ですからすでにご家庭を持たれているんでしょうね。
雀の姿焼き、我が家は幼少期に毎年夏と冬に長野に強制的に山登りとスキーに連れていかれていたんですが、いつも宿泊させてもらっていた父の友人宅では庭に雀を捕る仕掛けがあって、夕飯になると丸焼きが出てきて子ども心にそれだけはイヤ...無理!という感じでした(苦笑)
by FUCKINTOSH66 (2011-06-05 00:19)
ちょっとしたショートストーリーですけど
お店って色んなヒトの交差点ですから、こういうお話が
少しづつ全国にあるんでしょうね。
by muzik (2011-06-05 08:54)
マッチ一つにも思い出がギッシリですね。
御夫婦のみならずお子さんのためにもその後の修復を
願わずにはいられません。
PS・恥ずかしながらヤフーにてブログ開設しました。
お暇な時にでも覗いて下さい。(あの頃のステレオ)
by プリウス (2011-06-05 18:29)
FUCKINTOSH66さん
こんばんは
情景的に書こうとしていることもあるのですが、今回は
ちょっとしたエピソードの紹介だったのですが、
そんな風に読んで頂けて大変光栄です。
もう一件、今度はもっと深く私と関わったご夫婦の話があるのですが、
そこの子供たちは本当に可愛そうでした。
もちろん、その瞬間だけで子供たちの将来を決めることはできないのですが。
雀の姿焼き、だめですよね。豚の丸焼きも同じようにだめでしょう。
鳥肉も、皮の鳥肌が見えるものは食べられないんです。
でも魚はお頭付きでも大丈夫というのも
ひょっとしたら矛盾しているのでしょうか・・・
by そらへい (2011-06-05 22:20)
muzikさん
こんばんは
今回はエピソードの交差点事態が
主人公になってしまった話でした。
人に営みというのは、日本だけでなく世界中
変わらないものだと思いますね。
by そらへい (2011-06-05 22:23)
プリウスさん
こんばんは
マッチ箱に思い出が詰まっていて
マッチを擦ると一つ一つのエピソードが浮かび上がります(笑)
プリウスさんから、いつも素敵なコメントをいただくのに
ブログに訪問できないのは残念と思っていたのですが、
開設、おめでとうございます。楽しみが増えました。
これから早速訪問させて頂きます。
by そらへい (2011-06-06 23:46)
遅くなりましたが
リニューアルオープンおめでとうございます。
どくだみの花、畑にも咲いています。
何気なく見ていましたが
こんなに綺麗なんですね。
マッチ箱もいつも何気なく見ることが多かったですが
お店の思いや当時の思い出が詰まっていたとは。
「旅路」のマッチ箱も急に愛おしくなりました。
by ともちゃん (2011-06-07 08:05)
こんばんは
すっかりご無沙汰しております...
マッチのコレクション、いいですね~
それにまつわる思い出話も・・・
マッチ自体が今ではなかなか見かけませんから...
マッチで火をつけたタバコの一服目の味を思い出しました。(笑)
by Studio-Oz (2011-06-07 20:52)
ともちゃん
コメントありがとうございます。
ドクダミの花、ありきたりで地味ですが
何となく惹かれて毎年アップしているような気がします。
6月の使者ですね。
マッチもいつの間にか過去の遺物になりかけていますね。
子供の頃は、竈のそばにお徳用の大きなマッチ箱がありました。
そして、喫茶店や飲み屋さんなどでもマッチ
昭和ですね。
by そらへい (2011-06-07 21:47)
Studio-Ozさん
おひさしぶりです。
お元気で何よりでした。
たばこをやめて3年あまりになりますが、
言われてみて、マッチで火をつけたときの
硫黄?のにおいを思い出しました。
たばこ、マッチ、懐かしい存在になってしまいましたね。
by そらへい (2011-06-07 21:50)
18歳でトーキョーへ行き
西麻布界隈に転がり込んで
女子とスーパーへ買い物に行くと
「トワ・エ・モア」と間違われたことがありました・・・・笑。
by sigedonn (2011-06-10 01:40)
sigedonnさん
こんばんは
西麻布って、演劇目指している方が多いところでは
なかったでしたっけ。
「トワ・エ・モア」にどちらが似ていたのでしょう。
二人とも・・・芥川さんは背も高くて二枚目でしたよ・・・
by そらへい (2011-06-10 20:39)